参考資料:オオムラサキ (フリー百科事典より転載)

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■オオムラサキは、チョウ目(鱗翅目)・タテハチョウ科に分類されるチョウの一種。学名はSasakia charonda(Hewitson, 1863)、中国名は「大紫蛺蝶」。

★概要
日本に分布する広義のタテハチョウ科の中では最大級の種類。生態や幼虫、蛹の形態は同じコムラサキ亜科のゴマダラチョウによく似る。

成虫は前翅長50–55mmほどで、オスの翅の表面は光沢のある青紫色で美しい。メスはオスより一回り大きいが翅に青紫色の光沢はなく、こげ茶色をしている。

北海道から九州まで日本各地に分布し、日本以外にも朝鮮半島・中国・台湾北部・ベトナム北部に分布している。国内では生息環境が限られ、適度に管理された、やや規模の大きな雑木林を好んで生息する傾向が強い。かつては東京都区内の雑木林でも見られた。都市近郊では絶滅の危機に瀕する産地もある一方、山梨県のように今でも広域に多産する地域がある。

成虫は年に1回だけ6–7月に発生し、8月にも生き残った成虫を見かける。花の蜜は吸わず、クヌギやコナラといった広葉樹の樹液などに集まるが、その生態は勇ましく、スズメバチなど他の昆虫を羽で蹴散らしならが樹液を吸う姿を良く見かける。また、飛翔能力が高く、近くに居る時にはその音が聞こえる程、鳥の様に力強くはばたいて、あるいは滑空しながら雄大に飛ぶ。縄張り飛翔は午後に行われることが多く、西日を浴びて高い樹冠を活発に飛び回る姿を見かける。

幼虫の食樹はエノキやエゾエノキ。卵から孵った幼虫は、夏から秋にかけてエノキの葉を食べて成長する。冬は地面に降りて、食樹の根際や空洞内に溜まった落ち葉の中で越冬する。春に休眠から覚めると再び食樹に登って葉を食い、更に成長を続け、蛹になる。

日本国内での地理的変異はやや顕著。北海道から東北地方の個体は翅表の明色斑や裏面が黄色く、小型。西日本各地の個体は一般に大型で、翅表明色斑が白色に近く、かつ裏面が淡い緑色の個体も多い。九州産は翅表明色斑が縮小し、一見して黒っぽい印象を与える。日本国外では、裏面に濃色の斑紋が出現した型が多く見られ、また、雲南省からベトナムにかけての個体群は明色斑が非常に発達する。

★国蝶であることについて
国蝶をどのように選ぶべきか、あるいはどの種類にすべきか、ということについては、古く1933年頃より片山胖、結城次郎、中原和郎などによりZephyrusという同好会誌上で論議されていた。そして、当時からオオムラサキはその候補種だった。実際には1957年になって日本昆虫学会で国蝶として選ばれた経緯があり、「日本における代表的な大型美麗種」という観点での選抜意見が強く働いたと推定される。

しかし、本種は上述したようにベトナム北部から中国東北地方にまで及ぶ東アジアの広域分布種であり、日本の自然環境を代表する種ではない。したがって、本種が最初に発見されたのが日本であること(種の基産地は神奈川県)、ならびに属名のSasakiaが佐々木忠次郎に献名されたことを考えたとしても、現在では本種が「国蝶」であることを強調し、あるいは「国蝶」であるゆえに他のチョウとは何か異なった重要性や希少性があるような論議にはあまり意味がないと考えられる。

★保護について
本種は環境省により準絶滅危惧(NT)に指定されてはいるものの、都市近郊で雑木林が寸断されている場所を除けば、減少あるいは絶滅の心配はあまりない。たとえば、今でも東京近郊の八王子市や町田市、あきる野市、横浜市緑区などで冬季に越冬幼虫を探せば難なく発見できる。成虫が一般に珍しいと思われがちなのは、あまり人目につかないところを飛翔する生態に原因がある。なお、多数の成虫が飛ぶ地域を観察すれば理解されるように、クヌギの古木から発酵した樹液が出ていたり、道路に獣糞の落ちているような雑木林を保全することが重要なのは言うまでもなく、そのためには適度な伐採と再生や下草刈りなどが重要である。

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